GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)とは、合成高分子(プラスチック、コポリマー、オリゴマーなど)、天然・生体高分子(セルロース、たんぱく質、抗体医薬など)の溶液中の物性を「大きさ(=分子量)」と「分子構造」を基軸に評価する技術です。本ページでは、GPCの原理・技術概要と、マルバーン・パナリティカルのGPCシステムの特徴についてご紹介します。
GPCは、俗に言う高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の一種です。HPLCの順送・逆相クロマトグラフィーが分子とカラム担体との化学的相互作用を基に分子を分離するのに対し、GPCは分子のサイズ(体積)によって分離するのが特徴です。その特徴から、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC:Size Exclusion Chromatography)または、ゲルろ過クロマトグラフィー(GFP:Gel Filtration Chromatography)とも呼ばれます。
分離には、分子を分離するために適した小さな穴を持つ多孔性材料が充填されたカラムを用います。このカラムは、GPCのもっとも重要な要素です。充填剤の材質によって分離に使用できる溶液(水系・非水系)が異なります。また充填剤の粒径・細孔径によって、分離できるサイズ(体積)の範囲が変化しますので、その選び方は適正に行う必要があります。
ここに、溶解した混合分子(大きな分子も小さな分子も混ざった状態)があるとします。その混合液は、カラム内を流れていくと、以下のような現象が起きます。
- 大きな分子はカラム内での移動距離が短いために早い時間で溶出する
- 小さな分子はカラム内での移動距離が長くなるために、溶出される時間が遅くなる
上記により、分子をサイズ(大きさ)で分離できます。
図1.カラム内での分離のイメ―ジ
GPCで主にわかること
一般的なGPCでは、以下の情報が主に得られます。
- 分子量(重量平均分子量:Mw、数平均分子量:Mnなど)
- 分子量分布 分子量分布の度合い(Mw/Mn)
ポリマーであれば、この分子量や分子量分布が諸物性(機械的強度, 引張強さ, 耐衝撃性等)に大きく関わってきます。よって目的の材料が出来ているかの判断の一つとしてGPCが有効になります。またタンパク質や抗体等の生体性高分子では、分子量の情報により、その高分子が単量体なのか、多量体なのか判断が可能なため、精製・分離の操作の最適化などに役立ちます。
マルバーン・パナリティカルのGPCシステムの特徴
~さらに1歩上のグレードのGPCシステムをお手元に~
マルバーン・パナリティカルのGPCシステム の最も大きな特徴は、高分子の各種の精密分析に必要な情報を一つも欠けさせることなく、初期投資時に「マルチ検出器による複合システム」を構築できるのが可能な点です。このシステムを使えば、相対分子量, 真分子量, 絶対分子量が1台のシステムで測定可能になります。全ての検出器が直列に配管されており、1回の測定で最大4種類のシグナルが検出できます。
なぜ4種類シグナルが必要なのか、次の章で以下のポイントを中心に説明します。
- 相対分子量法(Conventional法)の課題とは?
- 粘度計の必要性とは?
- 多角度光散乱(MALS)は絶対分子量測定に必須か?
図. マルバーン・パナリティカルのマルチ検出器GPC/SECシステム OMNISEC
図.マルチ検出器GPC/SECシステムでの測定イメージ
さまざまなGPC評価方法
1. 一般的なGPC評価:分子量情報・濃度を基準にしたConventional 法(相対分子量)
一般的なGPCシステムでは、濃度を算出できるRI(示差屈折率)検出器やUV(紫外吸光)検出器を用いて、各時間に溶出してきた資料濃度から較正曲線(検量線)を作成し、分子量を算出します。
この方法は、まず分子量が既知である標準試料(ポリスチレンやプルランなど)をいくつか測定します。そのときの各条件(溶媒、カラムの種類・本数、流量、温度)における分子量と溶出時間(体積)の較正曲線(検量線)を作成します。続いて、同条件で調整した未知試料を測定し、各溶出時間(Retention Time:体積)と較正曲線(Conventional Calibration Curve)から分子量を算出します。
この方法によって求められた分子量は標準試料を相対的に比較することから、“相対分子量(Relative Molecular Weight)”と呼ばれます。
図2.Conventional Calibration Curve
2.一歩進んだGPC評価:粘度で「補正」したConventional 法(真分子量)
相対分子量は、分かりやすく歴史も古い手法で広く用いられている手法ですが、1つ大きな課題があります。それは、
分子量 = 体積(実測値)× 密度(標準試料)
の関係式を用いて算出していることです。この関係式では、体積値は較正曲線より算出されますが、分子の3次元構造を反映する「密度」は実測結果ではなく、較正曲線を作成するために用いた「標準試料の密度を参照値(≒類推値)」として使用します。
たとえば、直鎖構造のポリスチレンを用いた場合の相対分子量は、その密度を使用することから、あくまでも「ポリスチレン換算値」としての値になります。この場合、測定するサンプルの構造が「標準試料の構造と類似」していれば、相対分子量の値は有効です。しかし、サンプルの構造が分岐構造を持つなど、「標準試料の構造と異なる」場合は、その密度は異なります。これが、相対分子量での解析の原理的な限界になります。
この密度を見積もるために採用されたのが“粘度検出器”です。なぜ粘度を求める必要があるのかというと、実は、溶液の“固有粘度(単位:dL/g)”を求めるためです。固有粘度値は密度の逆数ですので、固有粘度値が求まれば、溶解している高分子サンプルの密度が計測できることになります。したがって、分子量の関係式が
分子量 = 体積(実測値)× 密度(実測値)
となり、密度の項が実測値になることから分子量の正確性がより高まることになります。この密度補正をした分子量を“真分子量(True Molecular Weight)”と呼び、この真分子量を求めるための較正曲線を“Universal Calibration Curve”と言います。
また固有粘度は別の知見を与えます。そのひとつが「Mark-Houwink桜田プロット」です。これは、固有粘度と分子量 Mとの関係を簡単に表した式から算出されるプロットで、この傾きから、大きく広がっているか(疎か)あるいは密か、などといった、溶液中の分子の3次元的な状態を推測できます。また、他の情報として、Rh:流体力学的直径やRg:慣性半径といった分子サイズも算出可能です。
図3.Universal Calibration Curve
3. より正確で精密なGPC測定:絶対分子量による評価
粘度検出器の導入で、原理上は正確性が高い分子量情報が得られるようになりました。しかし、現実的には “カラム吸着”や“充填剤とサンプルの相互作用”によって、サンプルの体積(溶出時間)そのものが遅れてしまうことがあります。
この場合、体積値が実際に小さく見積もられるため、いくら密度補正をしても正確な分子量が算出できません。冒頭にも述べましたが、カラムの選択の数は膨大にあり、そして、試料状態にも溶出速度は影響してしまいます。この場合、溶出時間に依存しない方法で分子量を求める手法が必要になってきました。この問題を解決するために採用された手法が、“光散乱法”を用いた光散乱検出器を用いる方法です。
溶液中の分子に単色光(レーザ光)を照射すると、分子から散乱光(主にレイリー散乱)が得られます。この散乱光は分子の重さを反映しており、以下の式で表すことができます。
式(1)
GPC測定ではサンプルは希薄な状態なので、右辺の第2項(2A2C)は無視でき、簡略化されます。
式(2)
上の式から、散乱強度と分子量は比例の関係になります。したがって、
- 分子量が大 → 散乱強度が大
- 分子量が小 → 散乱強度が小
となります。
これは、動的光散乱(DLS)でも 似た関係がいえます。この時のC(濃度)はRI検出器やUV検出器から算出可能ですので、散乱光量が得られれば、式(2)より分子量が算出できます。この光散乱法によって求められた分子量は、未知項のない実測値に基づく、絶対的な手法で測定されていることから“絶対分子量(Absolute Molecular Weight)”と呼ばれています。
この絶対分子量法を用いる最も大きな利点は 、
- 先に述べた相対分子量や真分子量の様な較正曲線が必要無い
- 標準試料のバリデーションやそのコストを抑えつつ精密な分子量評価ができる
- カラム、溶媒の選択など、溶出速度に基づく複雑な検証工程をある程度スキップできる
- 精密に分子量を比較したい場合(たとえば抗体医薬の多量体検証、精密重合によるブロックコポリマーの評価など)に有効
などがあげられます。
図4.光散乱検出器を用いた分子量の解析イメージ
3-1. GPCに用いる光散乱検出器の要件(LALS/MALS)
光散乱検出器において重要なのは、“検出角度”です。散乱光は分子の重さを反映して変化しますが、分子の重さを正確に反映した散乱光は理論上、「0°」で検出できます。しかし、「0°」とは、レーザーの光軸と同軸になり、反射光を含むため、散乱光のみを取り出す事は現実的には難しくなります。この「0°」の散乱光にできだけ近い角度で検出し、分子の大きさを算出するアプローチとして、LALS(Low Angle Light Scattering)と「0°」の散乱光を多点方から求めるMALS(Multi Angle Light Scattering)があります。
大きな分子(半径10~15 nm以上)にレーザー光が照射されると、分子の様々な箇所で散乱が起きます。光は波の性質を持っていますので、散乱光に角度依存が生じます。
図5.散乱光の角度依存イメージ
この性質を利用しているのが、MALSです。様々な角度に検出器を配置し、散乱光を計測します。散乱光と検出角度のプロットを作成し、近似線からY軸切片(≒角度0°)の散乱光が求まります。
それに対して、LALSは0°により近い角度で計測する事で、確度の高い散乱光を検出するというアプローチになります。散乱光と検出角度のプロット図において、横軸(≒検出角度)はsin2(θ/2)で表されます。一方、LALS検出器は7°で散乱光を検出する事ができます。この7°をsin2(θ/2)で表すと“0.0037”となり、ほぼ0°と近似できるので、7°の散乱光を0°と近似してそのまま使用可能です。
図6.LALSとMALSのアプローチ
この散乱光の角度依存性ですが、全ての分子で起きるわけではありません。小さな分子(半径10~15 nm以下)では、散乱する箇所が1点になり“等方散乱”になります。この領域では、散乱光量も小さくなります。したがって、ノイズレベルの低い(S/N比が高い)散乱光の検出が必要になります。
一般に、光源に近いほどノイズは大きくなりますので、ノイズを小さくするには光源から一番遠い距離である垂直(90°)の位置で散乱光を検出すればS/N比の高い散乱光が得られます。このアプローチをRALS(Right Angle Light Scattering)と呼んでおり、MALSにもこの90°の位置に検出器が必ず配置されています。
図7.等方散乱とRALSのイメージ
3-2. MALSの課題
MALSは、多角度の検出が可能であり、高分子の光散乱角度の角度依存性を検証する研究などいった基礎研究には非常に有用です。しかし、原理上、絶対分子量を求める用途であるなら、多角度は必要ない場合があります。この場合、光散乱検出器は、“検出器の数=価格”になりますので、検出器数が多く搭載されているMALS検出システムは、先に述べた基礎研究の用途に使用しない場合、装置投資に見合う有用な活用方法が見出せない可能性があります。
3-3. LALS/RALSを採用したマルバーン・パナリティカルの光散乱検出器
このようなことから、弊社GPC/SECシステム中の光散乱検出器は、絶対分子量を求める用途には多角度の検出器(MALS)ではなく、信号強度の強いLALSとノイズレベルの低いRALSを用いた2角度検出器である「LALS/RALS検出器」を1次採用しています。このため、研究に必要な情報を必要な投資量の構成で達成し、お客様の生産性を向上させるための選択手段が広がります。
GPCのアプリケーション事例
1.分岐度などの類推
NMRなどの大型装置を使うことなく、RI検出器、光散乱検出器、粘度検出器を用いると、Mark-Houwink桜田プロットが作成できます。これにより、分子の構造(分岐度合い、分岐数)を評価する事が可能です。
図.Mark-Houwink桜田プロット
2.分子量の精密分析
RI検出器、UV検出器、光散乱検出器を用いれば、2種類の組成からなるコポリマーの解析や、タンパク質とミセルの複合体の解析が可能です。
図.膜タンパク質(タンパク質・ミセル複合体)の解析事例