グリーンセメントを実現するためのXRDの重要な役割
Turning Cement Green With XRD,69,World Cement (2022)に掲載された記事をご紹介いたします。
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マルバーン・パナリティカルのMatteo Pernechele 氏と Murielle Goubard 氏による、グリーンセメントを実現するためにX線回折技術が果たす極めて重要な役割についてご紹介いたします。
セメント業界では、サステイナビリティ(持続可能性)がますます重要な課題となっています。燃料価格の高騰、セメント混和材(SCMs)の不足、水・電力規制などの問題にも関連し、サスティナビリティに対しては様々な取り組みがなされはじめています。
例えば、欧州連合(EU)の排出権取引制度は、資源不足の緩和と炭素排出量の削減に役立っています。さらに、代替燃料や代替原料の効果や性能に対する理解が深まったことで、新しいプロセスや材料への扉が開かれました。
例えば、グリーンセメントを製造し、短期的・中期的にセメント産業を脱炭素化するためには、代替燃料のコプロセッシング(共同処理)と新しいSCMsを用いたセメント中のクリンカの削減が解決策となります。
それには、適切な原料とSCMsの選択、パイロプロセッシング(高温再処理技術)とその中間生成物の最適化、ブレンドの制御、最終的なグリーンセメント中のSCMs量の最大化が必要となり、X線回折による鉱物学的分析が不可欠です。
セメント製造は、複雑なプロセスです。
通常、ポルトランドセメントの製造は、まず石灰石や粘土などの原料を採掘し、粉砕して原料ミルと呼ばれる微粉末にすることから始まります。これをセメントキルンで1450℃の高温で焼結させ、セメントミルで細かく粉砕し、石膏と混合してセメントを作ります。
この粉状のセメントに水と骨材を混ぜ、建設に使われるコンクリートとなります。
この作業では、エネルギーと資源を大量に消費します。品質管理者次第では、石灰岩採石場の一番良いところから作った原石だけが窯に入り、化石燃料だけが使われることになるでしょう。
しかし近年、セメント業界では、持続可能性がますます重要な課題となってきています。焼成粘土のような新しいSCMsや、バイオマス、ごみ固形燃料、都市ごみ、タイヤ、おがくず、その他多くの種類の廃棄物や副産物のような新しい代替燃料(AF)が使用されるようになってきているのです。
鉱物学的分析は、セメント産業が低炭素でより循環型の経済に移行するために一役買っています。
環境に優しいセメントを製造するための解決策を見出すため、X線回折(XRD)による高速かつ自動の完全鉱物学的分析により、ブレンドに適した原料の選択が容易になります。
また、脱炭素やクリンカ生成のプロセス最適化や制御にも役立ちます。XRDは、SCMsの非晶質含有量を定量化し、混合セメントの組成が要求される規格に適合していることを確認できる、信頼性と実績のある唯一の工業用技術です。
鉱物学的認識を高めるX線回折
現在のようなX線回折装置(XRD)は1970年代頃登場しました。
現在では、鉱物や結晶相を完全に自動で同定・定量化するための主要な技術となっています。実際、XRDは非晶質材料(一部のSCMsを含む)を定量化できる唯一の工業技術であり、これにより、セメント中のクリンカを減少させることができます。
最新の工業用XRDはその可能性を最大限に発揮します。特定の鉱物に焦点を当てるのではなく、わずか数分で材料の鉱物学的組成を完全に特定することが可能です。このように鉱物学的な認識が深まることで、クリンカ品質の向上、新しいグリーンセメントの製造、工場全体のノウハウの向上に役立ちます。
現在、セメント工場におけるXRDシステムの使用は、製品品質の維持と円滑な操業の確保に重点を置いており、同時にセメント生産における二酸化炭素排出量と環境負荷全体の低減を図っています。

代替燃料(AF)
クリンカ炉は、いくつかの理由から、代替燃料にとって非常に魅力的です。
AFの燃焼によって発生する排出は中立とみなされ、カーボンニュートラルの達成に貢献するとともに、一般廃棄物や産業副産物の除去にも役立ちます。AFの燃焼による無機質灰は、少量の固形廃棄物(例えば、セメントキルンダストなど)と共にクリンカに取り込まれます。
しかし、AFや空燃比の変動は大きく、予熱器運転、キルン運転、クリンカ品質に悪影響を及ぼす可能性があります。
硫黄と塩化物を多く含む空燃比は、サイクロンプレヒーターに被膜を生成し、完全な閉塞につながる可能性があります。XRDシステムは、ホットミルの鉱物学的組成を分析することにより、このようなコーティングの発生を検知するのに役立ちます。
AFの使用は、キルンの温度勾配を変化させ、クリンカ品質に影響を与える可能性があります。ビーライトと石灰が反応しエーライトを生成するためには、高温であることが必要不可欠です。
XRDシステムは、この反応の歩留まりを簡単にモニターし、フリーライムを0.1Wt%の再現性で正確に測定することができます。
また、石灰石とペリクレースの量は、それぞれ2Wt%、5Wt%といった限界値以下に抑える必要があります。それは、これらの鉱物の水和が体積膨張を伴い、セメントの寸法安定性を損なう可能性があるからです。
クリンカに含まれるビーライトとエーライトは純粋な相ではなく、不純物を含んでおり、クリンカを適切に急冷することで、水和速度に優れた高温相を安定化させることができます。
例えば、クリンカの急冷が不十分な場合、ベータ型ビーライトからガンマ型ビーライトへの相変化が起こり、後者はセメント特性を有しません。
エーライトは、単斜晶系のエーライトM1とエーライトM3の2種類でクリンカに含まれます。ほとんどのクリンカはこの2つの形態を含んでいますが、SO3と酸化マグネシウムの比率を上げることによって、エーライトM1を優先させることが可能です。エーライトM1は水和後高い圧縮強度を示し、X線回折装置ではエーライトM3と区別することができます。
粉砕プラントでのXRDの利用
総合プラントで生産されるクリンカの量が増えるにつれ、クリンカを輸入する粉砕プラントの数も増えています。
輸入クリンカの鉱物学的分析は、その品質を保証し、セメントの潜在的な性能問題を回避するために不可欠です。また、XRDはセメント添加物の品質と適切な添加量を評価するために広く利用されています。

硬化時間、強度発現、寸法安定性を最適化するためには、硫酸カルシウムの鉱物学的性質と量を、アルミネートの含有量と種類に関連して調整する必要があります。
XRD分析の結果は、蛍光X線分析(XRF)で測定した三酸化硫黄の含有量と合わせることができ、二水石膏、半水石膏、無水石膏の硫酸塩を区別する付加価値もあります。
セメントの炭素排出量を削減する最も有望な方法は、クリンカ依存を減らすこと、例えば、セメントのクリンカを天然または合成のポゾランへ置き換えることです。
ポゾランとは、セメントの水和によって生成されるポートランダイトと反応し、セメントの強度と耐久性を向上させる働きを持つ物質です。ポゾランの質は、反応性の高い相と有害または不活性な相があるため、その鉱物学的性質によって定義されます。
石英、長石、輝石、磁鉄鉱などを多く含む火山性物質は、天然ポゾランには不向きです。
スメクタイトやカオリナイトを多く含むポゾランは、SCMsとして使用する前に熱的に活性化する必要があります。ゼオライト系鉱物、ゼオライト系鉱物であるアナルシム、リューサイト、チャバザイト、フィリップサイト、クリノプチロライトはポゾランとして好適です。
高炉水砕スラグ(GGBS)やフライアッシュの品質は、その鉱物学的性質と、X線回折で明確に定量化できる非晶質成分に大きく依存します。
適切に急冷されていないスラグは、結晶性のメリライトやメルウィナイトを多量に含むため、反応性が低くなります。また、高温で生成されたフライアッシュは、ポゾラン特性を持たないムライトを多量に含むことがあります。
XRD分析によるSCMsのアモルファス判定は、他の方法と比較して、より迅速にその適合性を示すことができます。さらに、完全自動化も可能です。
SCMsで代替可能なクリンカの量は、規格で厳密に規定されています。
例えば、EN-197-1規格では、27種類のセメントについて、クリンカ、石灰石、スラグ、フライアッシュ、ポゾラン、焼成頁岩、シリカフューム、その他の添加物の範囲が明確に定義されています。
EN-197-5の最新版では、ポルトランド混合セメントCEM II/C-Mと、EN-197-1には含まれていない別の種類の混合セメントCEM VIが追加されており、その使用目的は、よりサスティナブルな方法でコンクリート、モルタル、グラウトを調合することにあります。
XRDは、製品の適切な混合と均質性を確認するために広く使用されています。粉砕工場では、SCMsを許容上限値にできるだけ近づけ、クリンカ量とセメントの総生産コストを最小にすることが重要です。
SCMsの定量化が不正確であると、品質管理者は製品の収益性を犠牲にして安全マージンを大きくとることを余儀なくされます。XRDシステムは、SCMsを正確に定量化することができるため、混合セメントを製造する粉砕プラントの投資回収率は極めて魅力的なものとなります。
焼成粘土と新しいセメント
最近発見された焼成粘土と石灰岩のセメントにおける相乗効果は、規制当局やセメントメーカーの関心を集めています。
ヨーロッパでは、新しいEN 197-5規格は、クリンカ代替の上限をCEM II/B-M(Q-LL)の35%からCEM II/C-M(Q-LL)の50%に引き上げました。
LC3のようなこれら新しいセメントは、セメントの強度に影響を与えることなく、潜在的に炭素排出量を最大40%削減することができます。適切な粘土鉱床の特定と開発、粘土原料の焼成、クリンカやその他の添加物との適切な混合の確認には、正確な鉱物学的分析が重要となります。


間違った粘土を使用すると、セメントの性能を著しく低下させることがあります。カオリナイトとスメクタイトは、焼成によってポゾラン特性を示す一般的な粘土鉱物です。
焼成やクリンカとの混合に適した粘土は、その濃度が30-40 Wt%以上であることが必要です。石英、ヘマタイト、方解石、長石などの他の鉱物や、マイカ、イライトなどの粘土は充填材として作用します。
X線回折測定により、焼成時の脱水素反応により、粘土の結晶構造が崩れ、結晶性が失われることがわかります。
このような変化は、材料にポゾラン特性を与えるために必要です。
低温や短い滞留時間では、カオリナイトやスメクタイトが残留し、セメントの強度に寄与せず、作業性に影響を与えます。脱水素反応の開始温度は、カオリナイトで約550℃、スメクタイトで約700℃です。
したがって、最適な焼成条件は粘土の鉱物学的性質に強く依存します。
高温で長い滞留時間は、ムライト、クリストバライト、アノーサイト、ウォラストナイト、ダイオプサイド、ゲーレナイトなどの無反応性相の結晶化をひきおこします。
最適温度範囲は狭く、XRDは焼成粘土を最適な方法で製造するために必要なデータを提供します。
カルサイトがない、あるいは低濃度であることと、低いキルン温度とにより、クリンカを製造する場合と比較し、炭素排出量は劇的に削減され、得られた焼成土は、クリンカ、石膏、石灰石と適切な割合で混合されます。この比率はXRDによって正確に定量化でき、各地域の基準に適合させることが可能です。
その他多くの種類のクリンカやセメントを製造する際にも、XRD分析は有効です。
例えば、ジオポリマー、カルシウムアルミネートセメント、Ciment Fondu、カルシウムサルホアルミネートセメント、ビーライト・イエリマイト・フェライトセメント、ウォラストナイトをベースにした炭酸カルシウムシリケートクリンカ、アルカリ活性化材料、スラグと石膏をベースにしたスーパーサルフェートセメント、マグネシウムセメント、フォスフェイトセメントなどです(ただし、これらに限定されるものではありません)。
これらのセメントの用途は、低炭素セメント、速硬セメント、耐火物セメント、放射性物質や有害物質の封じ込め用セメントなど様々です。
持続可能な未来のためのXRD
X線回折は、クリンカとセメントの品質を管理するための重要な分析手法となっています。特に、ネットゼロ目標への対応が急務となっている現在では、その重要性が増しています。
このため、さまざまな代替燃料やSCMsの使用、可能な限り循環型アプローチを採用することによって、新しいグリーンセメントの製造が行われています。
XRDは、これらの異なる化合物の鉱物組成を迅速、正確、かつ自動的に定量化できる唯一の技術であり、これにより製造業者はセメント工程を完全に管理し、可能な限り環境に優しく、収益性の高いものにすることができます。
最も重要なことは、セメント産業がグリーンセメント製造を模索する中、XRDは品質、持続可能性、利益を同時に追及できる手法であることです。
著者について
Dr Matteo Pernecheleは、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で材料工学の博士号を、イタリアのパドヴァ大学で材料科学の修士号を取得しています。
固体化学全般の科学研究から、特に建設・鉱業分野の産業プロジェクトまで、幅広い分野で活躍中。
X線回折とリートベルト法の分野で14年の経験を持つ彼は、2018年からマルバーン・パナリティカルのアプリケーションでXRDアプリケーションスペシャリストとして勤務しています。
オランダのアルメロにあるコンピテンスセンターに在籍。
Dr Murielle Goubardは、マルバーン・パナリティカル社のグローバルセグメントマネージャー、Building Material担当です。彼女は材料化学の分野で幅広い経験を持ち、ソルベイリサーチセンターに15年間勤務。セメント製造プロセスに深い関心を持ち、効率と製品品質の向上を目指しながら、フランスの工場やヨーロッパの主要なセメント会社向けのアプリケーションやソリューションの開発に携わってきました。マルバーン パナリティカル社に15年間勤務し、現在は建築材料の専門家として、グリーンセメント工場、循環型社会、ネットゼロのためのソリューションに深く関わっています。