バイオ医薬品開発における物性評価技術:品質管理
バイオ医薬品開発の各ステージにおける評価すべき項目と、それらの評価が可能なマルバーン・パナリティカルの測定技術をご案内しています。こちらのページでは、「品質管理」について詳細をご紹介します。
■目次
複数の検出器を用いた多角的なサイズ評価(対応製品:SEC-LS・Vis)
β-アミラーゼの絶対分子量と固有粘度評価
サイズ排除クロマトグラフィー (SEC)に光散乱検出器(LS)を組み合わせると絶対分子量を求めることが可能である。この絶対分子量は分子の重さと相関があり、分子が重いと散乱光も大きくなり、分子が軽いと散乱光は小さくなる傾向がある。下図はβアミラーゼのSEC-LSの測定結果である。検量線から求めた分子量では、2つのピークは前半が凝集体、後半が単量体と判断される。しかし、ここに光散乱検出器を用いた絶対分子量の解析を行うと、表のようにこの2つのピークの分子量はほぼ同じであり、固有粘度値が異なることから、分子の構造が異なっていることが示唆される。構造が異なるということは分子の体積が異なるため、2つのピークが得られたと判断することができる。
このようにSECを用いて多角的なパラメータで評価すると、製剤化されたタンパク質の詳細、且つ正確なサイズ比較が可能となる。
Peak1 | Peak2 | |
溶出量(mL) | 14.60 | 15.97 |
分子量(g/mol) | 209、200 | 214、200 |
固有粘度(dL/g) | 0.1572 | 0.05705 |
TmおよびT1/2を指標とした不安定化予測(対応製品:DSC)
強制酸化による抗体の熱安定性への影響
示差走査型カロリメトリ―(DSC)では、製剤化後の保存や輸送時等に生じる酸化などの影響を、熱安定性を指標として比較、検討することが可能である。下図は抗体を強制酸化する前後でDSC測定を行ったものである。酸化後のサンプルでは、初めに現れるTm1の変性開始温度(Tonset)が酸化前に比べ下がり、ピークがブロードになっていることがわかる。一方、メインピークのTm2はさほど影響を受けていないことも分かる。これらのことから、この抗体は酸化によりFc-CH2ドメインが不安定化されたことが示唆された。
このようにDSCを用いると、抗体医薬品が酸化により、どのドメインに影響を受けるか、についての評価が可能となる。
エンタルピー変化を指標とした結合活性確認(対応製品:DSC)
gp120の熱安定性とCD4との結合活性の相関
DSCで得られるデータは、サンプルの高次構造が保持されていれば、同一濃度、同一緩衝液条件下でピークが完全に重なる。下図の(a)は、gp120タンパク質の異なるロット間のDSCデータである。ピークトップはいずれも61 ℃付近にあるがピークの大きさが違うことが示唆されている。(b)は、(a)で得られたエンタルピー変化(ピーク面積に相当)を横軸にとり、縦軸にはgp120と結合するCD4との結合活性(%)をプロットしたものである。エンタルピー変化と結合活性に直線性の相関が見られることから、エンタルピー変化が小さくなったことは、不活性な分子が含まれたロットであることを示唆する。
このようにDSCを用いると、製造後の品質評価が可能である。
ピーク形状の類似性を指標とした同等性評価(対応製品:DSC)
抗体のロットの違いにおける同等性評価
DSCで得られるサーモグラムは、サンプルの高次構造が保持されていれば、同一濃度、同一緩衝液条件下で同じ形状(フィンガープリント)が得られる。得られた形状が異なっている場合、サンプルの構造が部分的に不安定になったものが含まれていることを示唆する。また、形状が類似していても、ピーク面積が小さくなっている場合、溶液中に、すでに変性したサンプルが含まれていたことを示唆する。
下図は製剤化後の抗体のロット間の同等性を評価したものである。それぞれのサーモグラムがよく一致していることから、各ロット間で同等性が保持されていることが示唆された。
このようにDSCを用いると、ロット、および拠点間でのタンパク質製剤の同等性の評価が可能である。
アフィニティと結合比を指標とした同等性評価(対応製品:ITC)
ロットの異なるタンパク質の結合活性評価
等温滴定型カロリメトリ―(ITC)で取得される結合比(n)は、データの横軸で表される「シリンジサンプル濃度/セルサンプル濃度」の値である。一般的にセルにタンパク質をセットすることが多く、結合比を比較することでタンパク質の結合活性を評価することが可能である。下図はあるタンパク質の、異なるバッチ間の結合活性をITCで比較したものである。シリンジにはポジコンであるペプチドを充填している。得られたシグモイドカーブの傾きはほぼ同等で、アフィニティを見ると、ロット1は97.1 nMに対し、ロット2は135 nMでそれほど差がないことが分かる。一方、結合比を見るとロット1は1.05 sitesであるが、ロット2は0.235 sitesとなっている。タンパク質の結合活性が保たれていれば、結合比は理論的に1(100%結合)になるため、ロット2はタンパク質が約24%しか結合活性が保持されていないことを示唆していることになる。
このようにITCを用いると、ロット間や拠点間で、タンパク質製剤の結合活性が保持されているかについて評価が可能である。
粒子径とPdIを指標としたサイズと粒子径分布評価(対応製品:DLS)
異なる保存条件での抗体のコロイド安定性比較
抗体の保存条件は、品質に大きな影響を与える。動的光散乱法(DLS)で粒子径を測定することで、使用している条件が最適であるかを評価することが可能である。
下図は保存条件が異なる場合のIgGの粒子径測定結果を示している。4 ℃で35日間(緑)保存した状態では、凝集体もなくPdI(多分散指数)も小さいことが確認できる。それに対し、凍結/溶解を5回繰り返した保存条件(赤)では、凝集体が発生しており、PdIも非常に大きいことが確認できる。25℃で31日間保存した試料(青)は、凝集体があまりないことが確認できるのだが、PdIが少し大きくなっていることが確認できる。よってより詳細な保存条件の影響を見るためには、粒子径だけでなく、PdIで比較、評価することが有効である。
このように、DLS用いて異なる保存条件下で製剤化されたタンパク質のサイズと粒子径分布の評価を経時的に行うことで、保存条件の最適化が可能となる。
散乱光によるSVPの経時的評価(対応製品:NTA)
過酷条件にさらした抗体の経時的なSVP観察
品質管理業務では加速試験で医薬品を評価することが求められる。その際、粒子径だけではなく、ナノ粒子トラッキング解析(NTA )による粒子濃度をパラメータに加えることで、より詳細な評価が可能になると考えられる。下図は、通常の加速試験よりも過酷な条件にさらしたIgGをNTAで評価したものである。1 mg/mLで調整したIgGに対して50 ℃で加熱を行い、SVPの発生する様子を分析すると、時間が経つにつれてSVPの濃度が高くなり、またより大きな凝集体が増えていることが一目瞭然である。
このようにNTAを用いると、SVPの定量的な評価が可能である。
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