溶液中の生体分子は、天然(folded)状態と変性(unfolded)状態の間で平衡状態にあります。サンプルの半分が変性している状態を表す 変性中点温度(Tm)が高いほど、その分子は安定であると言えます。
Tm
はコンストラクトや溶液条件、および外因ストレスなどによって変化するため、
Tm
を指標とした熱安定性解析を行うことでサンプル間の物性比較を行うことができます。
溶液中の希薄濃度のタンパク質、またはその他の生体分子の熱安定性の特性評価を目的とした示差走査熱量測定装置です。DSCはシステムを一定間隔で温度を上昇させることによって生じる分子の熱変性がもたらすアンフォールディングのエンタルピー変化(∆H)を測定します。また、熱変性が起きる際の熱容量変化(ΔCp)も測定することができます。 DSC を用いることで、天然状態にある生体分子のフォールディングと安定性に寄与する要素を明らかにすることができます。 その要素には疎水性相互作用、水素結合、構造エントロピー、物理的環境などがあります。
バイオ医薬品の開発や製造の現場では、コンストラクト選択を目的とした熱安定性評価の他、精製および製造条件の最適化、生物学的類似性(バイオシミラー)およびバッチ間の同等性評価などで用いられています。
DSC(示差走査熱量測定装置)のサーマルコアはリファレンスセルとサンプルセルの、2つのセルで構成されています。
この2つのセルの温度を上昇させる際、これらのセルが同じ温度で維持されるように設計されています。 タンパク質がアンフォールドした際の非共有結合の再配位によって生じる吸熱反応により、セル間に温度差(ΔT ) が生じ、ペルチェユニット全体にわたって温度差が生じます。
リファレンスセルとサンプルセルとの温度差を限りなくゼロにするために加えられたセルヒーターのディファレンシャルパワー(DP)を測定することにより、これらの熱変化をモニターし熱量変化に換算します。
DSC(示差走査熱量測定)の測定原理および測定方法の詳細は
こちら
をご参照ください。
DSCは熱変性に伴って生じた熱量変化をダイレクトに検出することで熱安定性が評価できる唯一の測定技術です。
DSCで得られるデータは高次構造情報を反映しているため、マルチドメインを持つサンプルの場合、ピークトップを求めることでドメイン毎のTmを比較できます。また、ピーク面積を比較することで、定量的な評価も可能です。
DSCの他に熱安定性を含む高次構造を評価できる測定技術には、DSF(示差走査蛍光測定法)やIF(固有蛍光スペクトル法)、CD(遠紫外円偏光二色性スペクトル法)などがあります。
(詳細については
こちら
をご参照ください。)
これらの技術は、熱変性に伴って露出した疎水面に結合した蛍光試薬の強度や、タンパク質に内在するアミノ酸の蛍光スペクトルの変化を検出することで間接的に熱安定性を評価します。
代表的なTmについては概ねDSCと同様の傾向が得られることが知られていますが、定性的なデータであるため、複数のドメインがある場合、どのドメインのTmに該当するか、また高次構造情報を定量的に比較することは難しいです。
弊社で取り扱っているDSC(示差走査熱量測定)には溶液の充填、洗浄を手動で行うマニュアルタイプ(MicroCal PEAQ-DSC)と、それらを自動で行うオートサンプラーを搭載したオートメーションタイプ(MicroCal PEAQ-DSC Automated)があります。
パフォーマンス、再現性、セル容量は同等ですが、サンプル数が少ない研究施設ではマニュアルタイプのPEAQ-DSCをお勧めします。 MicroCal PEAQ-DSC Automatedは多くのサンプルをスクリーニングする研究施設にお勧めします。MicroCal PEAQ-DSCをPEAQ-DSCAutomatedへアップグレードすることも可能です。
どちらの装置もMicroCal PEAQ-DSCソフトウェアによって操作します。このソフトウェアには、以下の特徴がございます。
MicroCal PEAQ-DSC Automated最高水準の調節環境向けタンパク質安定性解析 |
MicroCal PEAQ-DSC最高水準の調査アプリケーション向けタンパク質安定性解析 |
|
---|---|---|
測定タイプ | ||
ラベルフリー解析 | ||
タンパク質安定性 | ||
技術 | ||
示差走査型カロリメトリー(DSC) | ||
サンプル処理 | ||
測定温度範囲 |