近年、ナノカーボンの生産と研究はグラファイト構造・ダイヤモンドナノカーボンのいずれの形態でも増加しています。 ここではナノトラッキング法がカーボンの構造理解に寄与した事例を紹介します。
近年、ナノカーボンの生産と研究はグラファイト構造・ダイヤモンドナノカーボンのいずれの形態でも増加しています。 グラファイト構造を持ったナノカーボンの潜在的な用途としては、バイオナノ、ポリマー、繊維、燃料電池などがあり、ダイヤモンドナノカーボンはDDS、潤滑材、研磨剤などが報告されています。 カーボンナノチューブは名前の通り、炭素原子が円筒状に連なったもので、直径は数ナノメートルになります。しかし、その長さは直径の数百万倍になることもあります。 これらの構造はグラフェンシートから形成され、便利な電気的、温度的、機械的および引っ張り特性を持ち、電気回路、太陽電池、スーパーキャパシタ、環境汚染物質除去、医療診断など、多くの用途で提案されています。
本資料では、ナノトラッキング法を用いて、これらのカーボン材料の分析します。
ナノトラッキング法では懸濁液中の資料の粒度分布を得るために、散乱光とブラウン運動の情報を利用します。 レーザー光がサンプルチャンバーを通過するときにそこに存在する懸濁粒子が散乱を起こすので、倍率20倍の対物レンズを搭載した顕微鏡のカメラで容易に粒子ごとの散乱光を取得することができます。 カメラは毎秒約30フレーム(fps)で動作し、約100μm×80μm×10μmの視野内にある、ブラウン運動によって動く粒子の動画ファイルをキャプチャします(図1)。
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これらの粒子の動きはフレーム単位でキャプチャされます。 独自のNTAソフトウエアが撮像した各粒子の中心を同時に認識、追跡して各粒子がX方向、Y方向に移動した平均距離を計測します。 この値により、粒子の拡散係数(Dt)を計算します。サンプル温度(T)および溶媒粘度(η)が既知の場合、ストークスアインシュタインの式(式1)を使って粒子と等価球としての流体力学的直径(d)を算出します。
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ここでKBはボルツマン定数を示します。
ナノトラッキング法は多数の粒子について全体的に調べる手法というよりは、各粒子をその他の粒子とは関係なく、個別に評価する技術です。 ナノトラッキング法で取得した粒度分布の例を図2に示します。
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加えて、焦点深度が約10µmの範囲内で照射された固定視野(約100µm x 80µm)内での粒子の動きを計測します。 これらの図により、サンプルの散乱体積が推測できます。つまり、この視野内の粒子の濃度を測定し外挿することで、サンプル全体に対して、ミリリットルあたりの粒子濃度を推測できます。
カーボンナノチューブとネマチック液晶の混合物など、様々な炭素系ナノ材料の特性評価(Trushkevychら、2007および2008)や、炭素系もしくは金属系のナノ粒子パネルの酸化電位の評価(Hohlら、2009)はナノトラッキング法が使われた先駆的な事例ですが、近年はカーボンナノチューブやナノコロイドについての研究で、多くナノトラッキング法が使われています。
容易かつ安価な手法で生成したカーボンナノコロイドを用いてホルムアルデヒドの除去効率を評価するためにKimらは 電解法によって、水系でのカーボンナノコロイドを作成しました(2011)。 ナノトラッキング法は作成過程でのカーボンの粒子径を管理するために使用されました。 Lvら は、新しい光学機器で使用するグラフェン酸化物膜の設計及び製造で、グラフェン酸化物ナノ粒子の粒子径を把握するためにナノトラッキング法を使用しています(2011)。
カーボンナノチューブ(CNT)では、非球形であるけれども異なる添加剤環境中での試料の分散性と挙動の指標として、ナノトラッキング法を用いて等価球としての径を算出していました。 そこで、Schwyzerら は、自然条件下でのカーボンナノチューブの初期状態によるコロイドとしての安定性への影響を長きにわたって調査しました(2011)。 CNTの初期状態が乾式とスラリーで 溶媒の組成がCNTを沈殿物と懸濁状態とに分かれる決定的な因子であるとわかりました。 この後、この研究は、10種類のカーボンナノチューブの長期的コロイド安定性を、フミン酸およびカルシウムの有無に分けて調べたより広範な研究に発展しました。
最近では、Zemanovaらがフラーレンを過酢酸と反応させ、その後に起こる加水分解によって得た水溶性放射線防護フラーレン派生物(DF)の細胞毒性を調べました。 彼らはろ過されていない、細胞表面上で凝固した多分散性のDFよりも、単分散性DFの細胞培養に対する細胞毒性の方が低いことを示す際にナノトラッキング法を用いました(Zemanovaら、2011)。 Clementsらの報告では、フラーレンのコロイドサンプルに対する動的光散乱法のデータは2峰性の分布を示し、動的光散乱法で検出されたさらに大きな粒子はナノトラッキング法での測定範囲を超えることを指摘したうえで、このサンプルに対するナノトラッキング法での粒度分布は、主に100nmよりもわずかに大きな粒子を検出していることが示されました。 フラーレンに対するナノトラッキング法での粒子径のモード値は動的光散乱法による個数基準の測定結果と良く一致していました。
RAW264.7不死化マクロファージ内のフラーレンの細胞毒性はRuss(2013)が調べており、免疫細胞がフラーレンに出会うと、粒子を吸収し、細胞の通常の機能が変化することを特定しました。 この研究でナノトラッキング法はフラーレンおよびテルビウム内包フラーレン凝集体の解析に使用されています。
光音響の研究では、近赤外線の吸光度を高めるために作製した放射線でストレスを与えたナノダイヤモンドを持つ生物組織で、Zhangらは 粒子径を確認するためにNTAを使用しています(2013)。
Reedらは ナノチューブのプロキシとしてCNT構造にインターカレーショントレース触媒金属を使用して埋め込まれた金属を監視することによって単層カーボンナノチューブを検出するために、単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICPMS)を使用しました(2013)。 興味深いことに、spICPMSとNTAの両方によって分割試料の分析は、NTAよりも数桁低いことがspICPMSによる粒子個数濃度の定量性を示しています。 Reedらはこのことについて、装置の検出下限を上回るだけの十分な金属を含まないカーボンナノチューブが多く存在しているために、spICPMSがカーボンナノチューブを低くカウントしており、それによる金属含有量または金属サイズ、もしくはその両方の結果であろうと仮定しています。 しかし、カーボンナノチューブをng L-1という低い濃度で検出することは他の手法では不可能であるため、spICPMSは依然として環境、材料、生物学的用途でカーボンナノチューブの存在を検出するためのより感度の高い手法であると主張しています。 最近の特許申請でFahmyら (2013)は、細胞免疫反応を活性化させるためのカーボンナノチューブに基づいた構成物を説明し、マグネタイトとCL-2を添加したPLGAナノ粒子の解析に関するNTAデータで主張を裏付けています。
最後に、Sunら (2013)は、グラフェン担持ナノ粒子が近年さまざまな用途で大きな関心を集めていることから、メタノール酸化反応に対し、高表面積グラフェン粉末上のサイズ選択Ptコロイドナノ粒子の吸収度を調査しました。 この研究で、グラフェン表面上でのPtコロイドナノ粒子の吸収度は、混合プロセスのプロセスパラメータに大きく影響されることが分かりました。具体的には、混合プロセス中の溶液体積が変わることで、さまざまな触媒形態が得られることが判明しました。
ごく最近では、Chenら (2013)が、タンパク質とカーボンブラック(CB)との間の相互作用の特性評価を行うためにNTAを使用し、この中で、CBは吸入後にタンパク質(55kDaおよび70kDa)と反応することがあり、肺タンパク質の機能的構造を改変し、その結果、肺内で急性炎症反応を活性化させる可能性があることを突き止めました。