粒度分布(粒子径分布)の定義と測定方法
粒度分布とは
粒度分布とは、粒子の大きさの分布を示すもので、通常は粒子の直径を横軸、頻度を縦軸に取ったヒストグラムとして表現されます。
参考記事
粒度分布の測定方法
粒度分布の測定方法には、以下のような種類があります。
技術名 | 概要 | 主な利点 | 原理 | 計測機器の構成要素 |
---|---|---|---|---|
レーザー回折粒度測定法 | 数百ナノメートルから数ミリメートルの径の材料に対する粒度測定技術 | ・幅広いダイナミックレンジ ・素早い測定 ・再現性 ・即座のフィードバック ・高い試料処理量 ・校正不要 ・確立された技術(ISO13320) | レーザー光が粒子を通過する際に散乱する光の強度の角度変化を測定し、Mie理論を用いて粒度分布を計算 | 1. 光学ベンチ 2. 試料分散ユニット 3. 計測機器ソフトウェア |
動的光散乱法(DLS) | 1ナノメートル未満の粒子や高分子の径を測定する非侵襲性の手法 | ・ナノ材料およびバイオ材料に理想的 ・少量の資料で測定可能 ・素早い解析 ・非侵襲性 | 懸濁中の粒子がブラウン運動を起こし、レーザー光による散乱光の強度変化を解析して粒径を求める | 1. レーザー光源 2. 散乱光検出器 3. デジタル相関器 |
自動画像処理法 | 約1ミクロンから数ミリメートルの径を持つ粒子の特性評価に使用する高解像度の手法 | ・形状の違いの測定 ・凝集体や異物の検出 ・他の測定技術との併用が可能 | 個別粒子画像を取得し、粒径や形状を解析。統計的に有意な分布を構築 | 1. 試料の提示と分散 2. 画像取得光学系 3. データ解析ソフトウェア |
電気泳動光散乱法(ELS) | 粒子または分子の電気泳動移動度を測定し、ゼータ電位を算出する手法 | ・材料の比較が可能 ・DLSとELSの組み合わせが多い | 帯電した粒子が電界により移動し、その速度を測定してゼータ電位を算出 | 1. 電極セル 2. レーザードップラー法 3. 位相解析光散乱(PALS) |
粒子径分布の表示方法
粒子径分布は、粒子サイズごとにその割合を示すグラフで表示され、数基準(個数)や体積基準(質量)で異なる結果を得ます。数基準は粒子数、体積基準は粒子の体積で表示されます。
物事を細かく見ていくと、同じ種類のモノでも大きさが全く同じということはほとんどありません。
例えば、砂粒一つとっても、大きなものもあれば小さなものもあるでしょう。この、大きさのバラつきを統計的に表す方法がいくつかあります。
粒子径分布の種類
「分布曲線」で表現
大きさのバラつきをグラフにしたものを「分布曲線」と呼びます。よく使われるのは以下2種類。
- 頻度分布曲線:ある大きさの粒子がどれくらい含まれているかを表す
- 積算分布曲線:ある大きさより大きな粒子がどれくらい含まれているかを表す
特性評価を行いたい試料が完全に単分散でないかぎり(つまり各粒子の寸法が完全に同じでないかぎり)、その試料の統計的分布は様々な径の粒子から構成されます。
この分布を表す方法として一般的なのは、頻度分布曲線や積算(ふるい下)分布曲線です。
重み付け分布の種類 | 定義 | 用途 |
---|---|---|
個数重み付け分布 | 画像分析などの計数手法を使用し、各粒子に同じ重みを与えた分布 | 粒子の絶対数を知ることが重要な場合や、高解像度が求められる場合に有効 |
体積・質量重み付け分布 | レーザー回折法などの静的光散乱技術を使用し、体積で重み付けされた分布 | 各粒子の貢献度はその体積に比例し、相対寄与は粒径の3乗に比例。営業の観点からも有益 |
強度重み付け分布 | 動的光散乱技術を使用し、光強度で重み付けされた分布 | 各粒子の貢献度は散乱する光の強度に依存し、レイリー近似を用いると非常に小さい粒子の相対寄与は粒径の6乗に比例 |
基準の違いとデータ変換
数基準と体積基準は測定方法によって異なり、異なる基準間でデータを比較する場合には変換が必要で、特にレーザー回折法による体積基準のデータを数基準に変換することは推奨されません。
粒径データをある種類の分布から別の種類の分布へ変換することは可能ですが、これには粒子の形状および粒子の物理的特性について、ある仮定を行うことが求められます。
例えば、画像分析法を使用して測定し、体積で重み付けした粒度分布が、レーザー回折法によって測定した粒度分布と完全に一致する可能性は、極めて低いと思うべきです。
異なる手法で測定した同じ試料の粒径データを比較する場合、測定およびレポート作成を行っている分布のタイプによって粒径の結果がまったく異なる場合があることに留意することが重要です。
これは、5nm と50nm の直径を持つ同じ数の粒子から構成される1 つの試料を使用した下記の例で明確に示されています。数で重み付けされた分布では両方の種類の粒子に等しい重みが付けられ、小さい方である5nm の粒子の存在が強調されています。
一方、光強度で重み付けされた分布では、粗い方である50nm の粒子は100 万倍の信号を有します。体積で重み付けされた分布では、両者の中間のデータが得られます。
粒径データをある種類の分布から別の種類の分布へ変換することは可能ですが、これには粒子の形状および粒子の物理的特性について、ある仮定を行うことが求められます。
例えば、画像分析法を使用して測定し、体積で重み付けした粒度分布が、レーザー回折法によって測定した粒度分布と完全に一致する可能性は、極めて低いと思うべきです。
分布統計
“世の中には3 つの嘘がある。「嘘」、「真っ赤な嘘」、そして「統計学」である。” – Twain、Disraeli
粒子径分布レポートに使われるパラメーター
粒度分布データの解釈を単純化するため、様々な統計パラメータを計算し、レポートを作成することができます。ある試料に対して最も適切な統計パラメータの選択は、そのデータの用途および比較する対象によって異なります。
例えば、測定対象の試料中で最も数が多い粒径のレポートを作成したい場合、以下のパラメータから選ぶことができます。
指標名 | 説明 | 例 |
---|---|---|
平均径 | 母集団の「平均」粒径 | – |
モード径 (Mode) | 最も高い頻度の粒径 | データ {1, 2, 2, 3, 4} の場合、モードは 2。 |
メジアン径 (Median) | 粉体を粒径から2 つに分けたとき、大きい粒径と小さい粒径が50%ずつとなる径。 | データ {1, 2, 3, 4, 5} の場合、メジアンは 3。データ {1, 2, 3, 4} の場合は (2 + 3) / 2 = 2.5。 |
フェレー径 (Feret Diameter) | 物体の形状を測定する指標で、物体の最長径を指す。特に粒子や細胞のサイズ評価に役立つ。 | – |
マーチン径 (Martin Diameter) | 物体の形状を評価する指標で、特に粒子の形状の不規則性を考慮した測定。 | – |
多くの試料で見られるように、粒度分布の形状が左右非対称の場合、下記の図に示すように3つの値がまったく等しくなることはありません。
平均径
分布データの収集方法および解析方法により、異なった平均の定義が数多く存在します。粒度測定で最も一般的に使用される3つの定義は以下のとおりです。
平均の種類 | 記号 | 説明 |
---|---|---|
算術平均 | D[1, 0] / Xnl | 定義: 粒子計数が測定対象の場合に最も重要 用途: 試料内の総粒子数が分かっている場合に計算され、粒子の計数に限られる |
表面積モーメント平均 | D[3, 2] / Xsv | 定義: 特定の表面積が重要な場合に関連 用途: バイオアベイラビリティ、反応性、溶解性などを考慮し、粒度分布内の微細な粒子の存在を明確に表す |
体積モーメント平均 | D[4, 3] / Xvm | 定義: 試料体積の大部分を構成する粒子の径を反映 用途: 粒度分布内の大きな粒子の存在を明確に表し、多くの試料に関係する |
表面積モーメント平均および体積モーメント平均の例を下記の粒度分布に示します。この試料の大部分を構成する粗い粒子の径を測定することが目的であれば、D[4, 3] が最も適切です。
一方、存在する微細な粒子の比率を測定することが実際上、より重要であれば、D[3, 2] を使用する方が適切です。
パーセンタイル
レーザー回折法による測定のように体積で重み付けされた粒度分布の場合、試料で所定の比率を占める体積における最大粒径に基づいてパラメータのレポートを作成すると便利な場合がしばしばあります。
パーセンタイルはXaB と定義され、以下の意味を持ちます。
- X = パラメータ、通常は直径を表す
- D
a = 分布の重み付け(例:数の場合はn、体積の場合はv、強さの場合はi) - B = この粒径を下回る試料の割合(例:50%、小数で0.5 と表されることもある)
例えば、Dv50 は試料体積の50% が下回る最大粒径であり、体積単位のメディアン粒径とも呼ばれます。
下記の頻度図および積算図で示されるように、Dv10、Dv50 およびDv90 が最も一般的にレポートが作成されるパーセンタイル値です。
これらの3つのパラメータを監視することで、主な粒径に重要な変化が起こっているかどうかや、分布の末端で変化が起こっているかどうかを調べることができます。
これらが起こっている場合、下記の粒度分布に示すように微細粒子または過大な径の粒子/ 凝集体の存在によるものである可能性があります。
粒子形状・粒子の輪郭の定義
粒子は複雑な3次元の物体であるため、粒径測定と同じように粒子の記述をある程度単純化して測定およびデータ解析を行えるようにする必要があります。
粒子形状の測定は画像処理法を使用した測定が最も一般的です。この場合、収集されるデータは粒子プロファイルの2次元の投影図になります。 粒子形状のパラメータは、単純な幾何計算を用いてこの2次元の投影図から求めることができます。
粒子形状
粒子の全体的な形状は、アスペクト比のような比較的単純なパラメータを使用して特性評価を行うことができます。 例として下記の粒子の画像を使用する場合、アスペクト比は単純に以下のように定義することができます。
アスペクト比 = 幅 / 長さ
粒子の輪郭
粒子の輪郭は、凝集した粒子の検出に加えて、表面粗さなどの特性についての情報を提供します。 粒子輪郭パラメータを計算するには、凸包周囲長と呼ばれる概念を使用します。
凸包周囲長を求めたら、それに基づいて包絡度や鋭度などのパラメータを定義することができます。これらのパラメータは以下のように計算されます。
- 包絡度 = 凸包周囲長 / 実際の周囲長
- Solidity(鋭度)= 実際の周囲長を巻き付けた面積 / 凸包周囲長を巻き付けた面積
非常に滑らかな輪郭の粒子は凸性 / 固体性の値が1に近く、一方、粗い輪郭の粒子または凝集した1次粒子は凸性 / 固体性の値がそれよりも低くなります。
粒度分布に関して、より詳細を知りたい方は
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ベーシックガイドの目次
- はじめに 3
粒子とは? 3
粒子の特性を測定するのはなぜ? 3
どの粒子特性の測定が重要か 4
粒子特性 5
粒径 5
粒度分布 6
粒子形状 11
粒子の特性評価技術 14
どの粒子特性評価技術が必要か 14
サンプリング 14
試料の分散 15
技術:レーザー回折粒度測定法 17
技術:動的光散乱法(DLS) 19
原理 19
技術:自動画像処理法(粒子画像イメージング法) 21
技術:電気泳動光散乱法(ELS) 23
粒子関連の特性:レオロジー 24
参考文献 25
レーザー回折 散乱式粒子径分布装置セミナー動画
弊社スペシャリストの音声による解説が入ります。
全11回の内容となっており、数分~長くても15分ほどの動画です。
粒子計測セミナー内容
1. 粒子径分布の定義
2. 測定精度と測定器の使い分け
3. レーザー回折・散乱法の原理
4. レーザー回折・散乱式装置の構成(マスターサイザー3000)
5. スプレー用レーザー回折・散乱式装置
6. プロセス用粒子径分布測定装置
7. レーザー回折・散乱式測定条件の最適化
8. レーザー回折・散乱式装置買い替え時の注意事項
9. レーザー回折・散乱式にありがちな「変なデータ」の原因と対処法
10. レーザー回折・散乱式特徴まとめ
粒度分布計のご紹介
1, レーザー回折散乱法マスターサイザー
マスターサイザーは、1秒間に10,000回の高速データ取得により、高精度・高再現性が可能な粒子径測定装置です。
マスターサイザーは、計測時にありがちなお悩みを解決します!
お悩み1:メソッド(試験法)の設定や最適化が難しい
お悩み2:異なるモデル・メーカーの装置間差に悩まされる
お悩み3:経験値の差が測定結果に反映されてしまう
お悩み4:測定結果に確証を持ちたい
2, ゼータ電位測定装置ゼータサイザー
ゼータサイザーシリーズは、粒子径測定、ゼータ電位測定、分子量測定に1台で対応できるナノ粒子・高分子向けの分析装置です。
ゼータサイザーは、ゼータ電位測定をする上でよく起こる問題を解決します!
問題1:塩濃度が高いと正確にゼータ電位が測定できない
問題2:測定したい粒子が性能限界に近い粒子サイズ
問題3:得られた結果が確からしいものかわからない
問題4:分解能に限界がある
問題5:サンプルの変化が早く、測定がついていかない
問題6:粒子濃度がわからない