カーボンブラック粉末の非水系ゼータ電位測定

はじめに

カーボンブラックナノ粉末は、インク、塗料、コーティング用途、アスファルトシーラント、装飾コンクリート着色剤、繊維、導電性/抵抗性用途など、多くの産業分野で広く使用されています。カーボンブラックを非水性媒体に分散させなければならない用途もいくつかあります。カーボンブラック粒子を分散させ、凝集体の存在を最小限に抑えるための最適な媒体を見つけるために、主に経験的な定式化に基づき、多くの努力が払われてきました。異なる分散媒体の場合、分子構造の違いの他に、電荷移動能力、つまり分散粒子の表面電荷に関係するパラメーターのひとつが誘電率です。カーボンブラック粒子の分散に最適な媒体を見つける体系的な方法は、様々な比誘電率の媒体で粒子径とともにゼータ電位を測定することです。

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はじめに

カーボンブラックナノ粉末は、インク、塗料、コーティング用途、アスファルトシーラント、装飾コンクリート着色剤、繊維、導電性/抵抗性用途など、多くの産業分野で広く使用されています。カーボンブラックを非水性媒体に分散させなければならない用途もいくつかあります。カーボンブラック粒子を分散させ、凝集体の存在を最小限に抑えるための最適な媒体を見つけるために、主に経験的な定式化に基づき、多くの努力が払われてきました。異なる分散媒体の場合、分子構造の違いの他に、電荷移動能力、つまり分散粒子の表面電荷に関係するパラメーターのひとつが誘電率です。カーボンブラック粒子の分散に最適な媒体を見つける体系的な方法は、様々な比誘電率の媒体で粒子径とともにゼータ電位を測定することです。

非水系ゼータ電位測定の考察

非水性懸濁液のゼータ電位の測定は困難です。粒子の電気泳動移動度は分散媒体の比誘電率に正比例するため、非水系分散媒の移動度、ひいては周波数シフトは非常に小さくなります。位相分析光散乱(PALS)は、非常に高い感度(10-12 m2/V.s)を持ち、小さな粒子速度の検出に適しているため、非水性懸濁液中の電気泳動運動の測定に適していることが示されています[1,2]。また、非水性懸濁液でのゼータ電位測定を成功させるには、適切な測定セルも必要です。ゼータサイザーには、低電圧で高い電界強度を発生させることができ、溶媒との適合性に優れたユニバーサルディップセルアクセサリがあります。

実験

本研究では、カーボンブラック標準試験粉末(JIS Z 8901)を粉体工業技術協会より入手し、粒度分布が0.03~0.2ミクロンに規定されたものを使用しました。

使用前にオーブンで一晩乾燥させ、以下の有機溶媒に分散させました。:トルエン、デカン、クロロホルム、トリクロロエタン、テトラヒドロフラン、ブタン-2-オンおよびプロパン-2-オール。

粉末を0.1% w/vの濃度で溶媒に分散させ、超音波バスにて3分間処理を行った後、一晩放置してから測定しました。使用した溶剤は、富士フィルム和光純薬とナカライテスクジャパンから入手した純度の高いもので、比誘電率はそれぞれ4.8~19.2でした。

分散液が十分に安定した時点で、ユニバーサルディップセルアクセサリ[3]と組み合わせたマルバーン・パナリティカルの製品であるゼータサイザーで測定を行いました。各サンプルについて少なくとも3回のゼータ電位測定を繰り返しました。さらに、粒子のコロイド状態を確認するため、動的光散乱(DLS)機能を使用して粒子径測定も行いました。いずれの場合も測定は25℃で行いました。

結果と考察

非水系溶媒の場合、表面電荷が発生するメカニズム、電気二重層の構造、流体力学的なせん断面の意味はよく理解されておらず、広く研究されていません[4]。非水溶媒中の帯電メカニズムとしては、溶媒中の微量水の存在 [5,6]、帯電剤と粒子間の酸-塩基相互作用 [7,8]、溶媒と粒子間の酸-塩基またはルイス酸-塩基相互作用 [8,9]、溶媒中の不純物の存在などが考えられています。

図1は、比誘電率の異なる媒体中に分散させたカーボンブラック粉末から得られたゼータ電位と粒子径の測定結果をまとめたものです。最も比誘電率の低い純溶媒(トルエン=2.4およびデカン=2.0)では、分散液が不安定で、カーボン粒子がこれらの非極性溶媒中で凝集し、一晩で沈殿したため、測定結果を得ることができませんでした。他の溶媒については、測定された電気泳動移動度からヒュッケル近似を用いてゼータ電位に変換した値を縦軸として相対誘電率に対してデータを表示しました。報告されているサイズは、ISO13321 [10]で定義されている強度加重平均直径です。同じ比誘電率の2つの媒体(トリクロロエタンとテトラヒドロフラン)が使用され、これらは反対に帯電したゼータ電位を生成していることが分かりました。 本研究で使用したハロゲン系溶媒(クロロホルムとトリクロロエタン)のゼータ電位は正の値を示しました。これは、粒子表面と溶媒の間のルイス酸-塩基相互作用によって炭素粒子の電荷が生じることを示唆しています。

図1. 比誘電率の異なる様々な非水溶媒に分散させたカーボンブラックナノパウダーのゼータ電位と強度加重平均直径の変化

Zeta potential and mean diameter of carbon black dispersed in solvents with different relative permittivities

図1のデータから、この場合、非水性媒体中での分散を最適化するには、溶媒の比誘電率とルイス酸塩基性が関係していることがわかります。図1に含まれる粒子径とゼータ電位の情報により、カーボンブラック粉末に最適な分散剤を選択することができます。クロロホルム、テトラヒドロフラン、ブタン-2-オン、プロパン-2-オールでは、粒子径の小さい安定した懸濁液が得られ、強度加重平均直径はそれぞれ240~330nmでした。これらの低い粒子径は、有意なゼータ電位(負と正の両方の符号)と関連しており、単純な静電安定化メカニズムが非水溶媒中に存在しうることを示唆しています。

結論

このアプリケーションノートに要約された結果は、非水溶媒に分散したカーボンブラック粉末のゼータ電位測定が可能であることを示しています。ゼータ電位は粒子径測定と組み合わせることで 分散安定性の研究および予測に使用できます。

参考文献

[1] J.F. Miller, K. Schätzel, B. Vincent (1991) J. Colloid Interface Science 143, 532. 

[2] J.F. Miller, O. Velev, S.C.C. Wu and H.J. Phloehn (1995) J. Colloid Interface Science 174, 490.

[3] ゼータサイザーシリーズ

[4] R. Xu. et al (2007)Carbon45 (14) 2806.

[5] J. Goodwin, F. McDonald, P.A. Reynolds (1988) Colloids and Surfaces 33, 1.

[6] A. Kitabara, M. Amano, S. Kawasaki, K. Kon-No (1977) Colloid and Polymer Science 255,  1118.

[7] F.M. Fowkes, H. Jinnai, A. Mostafa, F.W. Anderson, R.J. Moore (1982) A.C.S. Symp. Ser. 200, 307. 

[8] Ph.C. Van Der Hoeven and J. Lyklema (1992) Advances in Colloid and Interface Science 42, 205.

[9] A.V. Delgado, F. Gonzalez-Caballero, R.J. Hunter, L.K. Koopal, J. Lyklema (2005) Pure Appl Chem 77, 1753.

[10] 国際規格 ISO13321 (1996) Methods for Determination of Particle Size Distribution Part 8: Photon Correlation Spectroscopy, International Organisation for Standardisation (ISO).

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