ナノトラッキング法を用いたタンパク質凝集の可視化、高解像サイズと濃度の測定

このアプリケーションノートでは、タンパク質凝集の経時変化および温度ストレスに対する変化をモニターする目的で、粒子径と濃度の測定にマルバーンの装置がどのように使用されているのかを紹介します。

はじめに

タンパク質凝集は、製品の製造工程(細胞培養、精製、製剤)、保管、流通、取り扱いのあらゆる段階で、起こる可能性があります。 この原因は、攪拌や、極度のpH、温度、イオン強度への曝露、様々な界面(例:気液界面)などの各種のストレスです。 高濃度のタンパク質(一部のバイオ製剤の場合など)では、さらに凝集の可能性が高くなることがあります。

バイオ医薬品の試料には、様々な粒子径と特性(例:可溶性または不溶性、共有結合性または非共有結合性、可逆性または不可逆性)を持つ各種の凝集体が含まれます。 タンパク質凝集体は、微小なオリゴマー(nm単位)から、数百万のモノマー単位を含むμmサイズの不溶性凝集体まで、広範囲のサイズにわたります。

製剤製品の開発、製造、およびその後の保管において、凝集の特性の評価と管理を念入りに行う必要があります。 同様に、凝集状態をモニターすることにより、製造工程の変更や最適化が可能です。

ナノトラッキング法

ナノトラッキング法(NTA)は液体中の粒子を視覚化して解析する方法であり、ブラウン運動の速度を粒子径に関連付けるものです(図1)。 移動速度は液体の粘度、温度、および粒子径にのみ関係し、試料中に存在する個々の粒子径を測定し、粒子濃度を指定することにより、高解像の粒度分布を作成します(図2)。 タンパク質は屈折率が低いため、NTA測定での直径の検出下限は約30 nmです。 つまり、一般的に3~10 nmの範囲にあるタンパク質のモノマー単位はNTAで測定できませんが、わずか数十から数千ものモノマー単位で構成される凝集体では粒子径の測定と計数ができるということです。 通常は、粒度分布を得るために試料の希釈が不要なので、試料処理に起因する凝集プロファイルの変化は発生しません。

図1 NTA法で得られた代表的な画像。 この画像により、試料の特定の特徴、および凝集体の存在が即座に分かります。
MRK1986-01_Fig_1
図2 図1の試料から得られた粒度分布(個数分布)
MRK1986-01_Fig_2

例1 - ずり応力

次の例では、ウイルスがNTAで正確に直径45 nmと測定されました(図3a)。 ただし、その後に同一試料を数秒間単純に振とうすると、攪拌のずり応力によりウイルス試料中で凝集が誘発されました(図3b)。

図3 ウイルス試料の粒度分布プロファイル。a)ずり応力による凝集の誘発前、b)誘発後。 正規化した縦軸のスケールの変化は、凝集による粒子濃度の低下を示します(約80x107 粒子数/mLから約50x107 粒子数/mL)。
MRK1986-01_Fig_3

出典:Moser M., (2008) Emerging analytical techniques to characterize vaccines, Proc. Intl. Conf. Vaccines Europe, Brussels, December 2008.

例2 - 熱ストレス

熱(50℃)を使用するこの例では、1 mg/mLのIgGが時間経過と共に凝集し、638 nmのレーザーを搭載したNS500で観察すると、粒子の散乱光の数と強度が増加しました。 測定の各時点で、NTAと動的光散乱(DLS)で測定値を収集し、モノマーと凝集体の両方の粒子径データが観察できました(図4)。 熱凝集から20分後に、DLSで示されるモノマーのピークは球相当の流体力学的径で約10 nmを示しました。NTAで測定した凝集体の粒子径は約30 nmからはじまり、ピークが50 nmと85 nmで観察され、最大の凝集体では約300 nmでした。 NTAでは粒子濃度も測定されるので、熱凝集の経時変化における粒子数の増加も追跡できます(図5)。 このデータは、最初の30分間では粒径が30 nmを超える凝集体の個数が最も少ないことを示しています。 30~100分では粒子径が30 nm以上の凝集体数は安定しており、100分以降では凝集体が指数的に増加します。 タンパク質凝集の複合領域を研究する際、同一試料に基づくNTAとDLSの粒子径データ、およびNTAの濃度データを使用すると、情報に富む解決策が得られます。

図4 IgGの経時凝集
MRK1986-01_Fig_4
図5 NTAで測定したIgGの経時凝集 
MRK1986-01_Fig_5

例3 - 高濃度試料

タンパク質製造法は、150 mg/mL以上の高濃度のストックをますます生成できるようになっています。 50 mg/mL、100 mg/mL、および150 mg/mLのBSA試料が試料チャンバーに入れられました。 濃度が上昇するにつれて、非分解性モノマーと微小な凝集体による散乱が増加しますが、それでもNTAは直径約40 nmから凝集を特定して追跡できます(図6)。

図6 50 mg/mL、100 mg/mL、および150 mg/mLのBSA試料のNTAのビデオフレームと粒度分布プロファイル。
MRK1986-01_Fig_6

最近の文献例

三相分離に使用される硫酸アンモニウムの割合がα-キモトリプシンの粒子径および粒度分布に及ぼす影響のNTAを用いた研究(Rather et al., PLoS ONE, 2012. 7(12): e49241. doi:10.1371/journal. pone.00492410)。

Torosantucciet al. 銅/アスコルビン酸誘起のインスリン凝集に対する各種抗酸化物質が及ぼす影響のNTAを用いた研究 - 非凝集状態と比較した粒度分布の作成(Torosantucci et al., Eur J Pharm Biopharm. 2013 Aug;84(3):464-71. doi: 10.1016/j.ejpb.2013.01.011. Epub 2013 Feb 9.)。

結論

タンパク製剤内に大きな凝集体が存在すると患者への投与に適さなくなりますが、この凝集体を発生させないようにするには、合成、精製、包装、輸送、保管、および使用などプロセス中のどこでタンパク質のモノマー単位が凝集を開始するかを理解する必要があります。 NTAおよびDLSを使用して、プロセスの異なる時点で粒度分布を測定することにより、凝集が開始する時点を特定できます。 その後、この時点/手順を見直し、可能ならば変更することにより、タンパク質凝集体の形成の防止または遅延が可能になります。

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