従来のサイズ排除クロマトグラフィーは、高分子をその流体力学的サイズにより分離するための方法である。 従来より行なわれてきた方法(コンベンショナルキャリブレーション)では、カラムによる分離を行い、濃度検出器によって溶出試料の濃度を測定する。 このとき定量的結果を得るには、標準試料を用いて、溶出体積 を分子量と関連付ける検量線を作成する。 この方法は、標準試料と未知のポリマーの間で、同じ分子量に対する体積(すなわち密度)が異なる場合は上手く機能しない。
これに対し、粘度検出器を用いるユニバーサルキャリブレーションでは、測定するポリマーの密度が、検量線を作成した標準試料と異なることを考慮している。 Benoit 等により、 すべてのポリマーは、占有体積(1分子の体積)と溶出体積(または溶出時間)の関係を表す関数をキャリブレーションにより求めると、溶出体積(溶出時間)により占有体積が求められることが明らかにされている。 つまり、コンベンショナルキャリブレーションが溶出体積を分子量の関数としてカラムを校正するのに対し、ユニバーサルキャリブレーションでは、溶出体積を分子の体積の関数としてキャリブレーションを行なう。
分子の大きさ(体積)は、固有粘度(密度の逆数)と分子量の積に比例する。 Viscotek 差動ブリッジ粘度計を使用することで、 それぞれの溶出成分における固有粘度を得ることができる。 固有粘度と分子量の積の対数を縦軸に、保持容量を横軸にプロットし、近似曲線を作成することで、ユニバーサルキャリブレーションの校正関数を作成する。
本アプリケーションノートでは、ユニバーサルキャリブレーションを使用して線状ポリスチレンと分岐ポリスチレンの識別を行う。 粘度計を用いて分岐数を推定する。
分子量の異なる 3 種類の星型分岐ポリスチレン試料を、ユニバーサルキャリブレーション法により分析した。 さらに、線状ポリスチレン標準試料を使用して、ユニバーサルキャリブレーション曲線を作成した。
この測定では、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を使用した。 溶離液は脱気し、1.0mL/ 分の一定流量で圧送した。 オートサンプラーを使用して、約 0.8mg/mL に調製した溶液 50μL を注入した。 30cm の Mixed Bed リニアカラム 2 本をつなぎ、これを使い分離を行った。
Viscotek 粘度検出器と Viscotek 屈折率検出器(RI)により検出を行った。
溶出体積からだけでは、線状ポリスチレンと星型分岐ポリスチレンを区別することはできない。 図 1 に、線状ポリスチレン試料を使って作成したユニバーサルキャリブレーション曲線を緑色で示した。 キャリブレーションによって作成された直線は、カラムがこのサイズ範囲の試料を直線的に分離していることを示している。 また、図 1 は、11mL で溶出する線状ポリスチレン標準試料の RI 信号、同じく 11mL で溶出する星型分岐ポリスチレンの RI 信号も示している。 これらの曲線は似ているため、予め得た情報がなければ、RI検出器だけで試料が分岐しているかどうかを判断することはできない。
しかしながら、クロマトグラフィーシステムを粘度検出器とつなぎ、サンプルの固有粘度を測定し、線形なポリスチレンサンプルの固有粘度と比較することで、分岐数を推定することが出来る。
MW (g/mol) | 星型 IV(dL/g) | 線状 IV (dL/g) | IV 比 | Bn |
---|---|---|---|---|
340,000 | 0.805 | 1.162 | 0.693 | 4 |
100,000 | 0.315 | 0.497 | 0.639 | 5 |
2,500,000 | 1.308 | 4.632 | 0.282 | 10 |
表 1 によれば、線状ポリスチレンの固有粘度と分岐ポリスチレンの固有粘度の比率が、分岐腕数の関数になっていることが分かる。 規則的に分布した星型ポリスチレンの粘度と、線状ポリスチレンの粘度の関係は、次のように表すことができる。
式中の g は、(分岐ポリスチレンの固有粘度)/(線状ポリスチレンの固有粘度)である。 分岐腕数は f である。
図 2 は、分岐腕数と固有粘度比の関係を理論的に求めたものである。
本アプリケーションノートでは、星型ポリマーの分岐数を、従来のクロマトグラフィーシステムに粘度計を加えるだけで推定できることを示した。 また、粘度計を使用してユニバーサルキャリブレーション曲線を作成することで、線状ポリマーおよび分岐ポリマーの分子量を、コポリマー同様、正確に測定できることが分かった。
Grubisic, Z.; Rempp, R.; Benoit, H. J. Polym. Sci. Part B 1967, 5, 753