バイオ医薬品のうち、免疫グロブリンGアイソタイプ(IgG)(図1)を中心とした治療用組み換え型抗体の占める割合が高まっている。 癌、リウマチ性関節炎、糖尿病などのさまざまな現代病の治療に利用できる抗体療法の承認数はこれまでになく増え続けている。 バイオ医薬品の開発パイプラインにはさらに多くのIgG候補があり、これらの薬剤候補を正確に理解し、開発する必要がある。
バイオ医薬品産業では、従来、タンパク質の凝集のコントロールが、主要な課題として掲げられている。 タンパク質は保存期間が短く、時間が経過するにつれて沈殿する。血流中に凝集したタンパク質が存在する場合、免疫反応を活性化することがあるという有力なエビデンスがある。 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、タンパク質製剤中の凝集物の量を評価するために広く使われる強力なツールとして確立されている。
SECはタンパク質をサイズごとに分離するため、分子量の測定や凝集サンプルの割合を調べるために使われることが多い。 ほとんどのSECシステムは検出器を1台のみ(紫外線吸収検出器など)を使うが、ここに光散乱検出器を追加することで、散乱光量からタンパク質の分子量を直接測定できるようになる。光散乱検出器を利用すると、カラムの保持体積に関係なくモノマー、ダイマー、凝集体の分子量を測定出来る。 光散乱検出器は、UV検出器よりも、凝集体のような巨大粒子に対する感度がはるかに高いため、従来の方法では見逃してしまうことがある凝集体を検出することができる。 光散乱検出器には、低角度の散乱光のみを用いる方法(LALS)、直角散乱光のみを用いる方法(RALS)、およびこの2つを組み合わせる方法が有り、これらの方法では、正確な分子量の測定が可能である。光散乱検出器には、これらのほか、多くの角度での散乱光測定を同時に行うことで、実際には測定不可能な0°方向への散乱光の強度を外挿法により予想し、分子量を求める多角度散乱(MALS)がある。多角度光散乱検出器(MALS)は、受光検出器の配置された角度によって強度の異なる大きな粒子(タンパク質凝集体など)の回転半径(Rg)の測定にも使用できる。そのため、サンプルの構造または形状に関して得られる情報が増加する。
Viscotek SEC-MALS 20システム(図2)は、20角度で散乱光を同時検出できる光散乱検出器であり、溶出体積に関係なくタンパク質やタンパク質凝集体の分子量を測定できる。 このアプリケーションノートでは、精製したポリクローナル抗体(IgG)をSECで分離し、Viscotek SEC-MALS 20システムを使って特性の評価を行った結果を紹介する。
光散乱検出器として、SEC-MALS 20検出器を用いた。濃度測定には、TDA RI検出器を使用した。 サンプルは、Viscotek製タンパク質カラム2本により分離した。 移動相にはリン酸緩衝食塩水を使い、IgGサンプルを移動相内で調製した。 高い分離性を確保し、ベースラインの安定性を上げるため、検出器とカラムはすべて30°Cに維持した。
図3に、Viscotek SEC-MALS 20システムを使ったIgGサンプルのクロマトグラムを示す。 図4には、異なる角度の散乱光データを示す。 表1には算出した分子量を示す。
凝集体 | ダイマー | モノマー | |
---|---|---|---|
Peak RV - (mL) | 13.23 | 14.00 | 15.80 |
Mn - (kDa) | 674.12 | 308.6 | 147.2 |
Mw - (kDa) | 7661.00 | 309.2 | 147.4 |
Mw / Mn | 11.364 | 1.002 | 1.001 |
Rg(w) - (nm) | 26.6 | N/C | N/C |
Wt Fr (Peak) | 0.014 | 0.065 | 0.921 |
この結果から、この精製したIgGのサンプルは、3つのピークに分離していることが分かる。 一番右のピークは分子量測定値が147kDaである。 これはIgGの分子量と非常に近く、IgGのモノマーであることが明らかである。 真ん中のピークは分子量測定値が300kDaを少し上回っており、ダイマーであることが分かる。 これらのピーク全体にわたる分子量は非常に安定しており、単分散性であることが分かる。 この結果から、モノマー型およびダイマー型のIgGは、分子量と構造が明確であることが分かる。
しかし、一番左のピークは大きく異なっている。 このピークの光散乱信号は、屈折率信号よりもはるかに大きく、分子量は非常に高い値となっている。 ピーク内の分子量は大きく変化もしており、約600kDaから7×104kDaに及んでいる。 多分散性パラメータ(Mw/Mn)でも分かるように、非常に多分散性であり、このピーク内での分子量の範囲が非常に幅広いことを示している。 これは非特異的凝集体であることを示している。 これらの凝集体の中のigG分子は、その活性のほとんど、もしくはすべてを失っている可能性が高い。
濃度検出器により各サンプルにおける各ピークの割合を定量化できる。表1にはそれらの割合も示している。 モノマーのピークはサンプルの92%を占め、ダイマーはわずか7%である。 大きな凝集体が占める割合は2%未満である。
タンパク質は、SECおよびMALSのサンプルとしては、比較的小さな分子である。 溶解性タンパク質は、半径が通常10nm未満であり、等方性散乱体である。全ての散乱角度において、ほぼ同じ強度の散乱光が得られる。このとき、サンプルの慣性半径RgはMALSを使って測定することができない。 この例でもモノマー型およびダイマー型のIgGは、等方散乱体であるためRgは測定不可能である。 しかし、最も大きな凝集体の一部は、検出角度によって散乱光強度に違いが出る、非等方性散乱体であり、Rgが測定できるサイズぎりぎりの大きさである。 図4を見ると、凝集体のピークの散乱に角度依存性を見ることができる。 これを分析すると、Rgは26.6nmであることが分かる。 図5に、凝集体のピークの一部に対応するZimmプロットを示す。 図6に示すように、モノマーのピークを基にしたZimmプロットでは、IgGモノマーが等方性散乱体であることがはっきりと示されている。
このアプリケーションノートでは、Viscotek SEC-MALSシステムを使って、IgGの分子量の測定に成功した事例を紹介した。 この装置は、タンパク質の溶出体積や構造に関係なくタンパク質の分子量を正確に測定でき、非等方性散乱を示すのに十分な大きさの分子であれば、分子サイズを慣性半径Rgの形で調べることができる。 この例では、IgGモノマーとダイマーの分子量を正しく測定し、IgG凝集体の分子量とRgも評価することができた。 SEC-MALS 20システムは、SEC装置にMALS機能を持たせ、タンパク質の分子量の直接測定を可能にするために最適な検出器である。